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週刊Neue Fahne

2024年10月07日号

若手社員に真摯に向き合う-18-自分の過去の就労意識からの峻別

AIの長足な進化と普及は労働市場のみならず、基本的な人材育成に対する思考も変えていくことになることは必定である。人材の育成面で見た場合には、若手・新人たちにとって「下積み時代=見習期」という概念が恐らく不要になる。これは高度経済成長期を経験した先輩に指導されてきた一世代前の者達にとっては、自らの「下積み時代=見習期」と同様のことを若手・新人に求めることが一切通用しなくなるということである。
  高度経済成長期の日本企業における雇用制度は、一般的に新卒の一括大量採用と年功序列による賃金に基づいた終身雇用制であった。もちろん、これは大企業を中心とした雇用制度ではあり、中小企業では雇用の流動化は存在していた。しかし、これは日本型の雇用制度として社会に定着してきたし労働法制もこれに準じてきたといって過言ではない。

  こうした時代の新入社員に企業は当然のことながら即戦力など期待していなかった。極端にいえば入社後の数年間は、将来の戦力要員と位置づけた訓練期間と捉えていた。このため「学校で何を学んできたのか」などということもさほどの問題ではなかった。一方の新入社員にしてみれば「教育」を受けながら給料を得ていたことになる。
  しかしAIの普及に伴ってこのような牧歌的な時間軸は存在しなくなってきた。ビジネスにおいてアシスタントはもはや不要になり、必要なのは決定をする人だけという状況になってきている。これまで一定の「経験則」が必要とされた事柄もAIで対処可能という局面が多くなり、若手・新人から「下積み時代=見習期」という時間を奪うことになった。

  AIの長足の進化は今後の人材採用や企業内の人材育成手法にも大きな変化をもたらすことになる。採用面において“AIを操る少数のスタッフ”以外は、この先採用しなくてもよくなってくるという大変化が起こる可能性もある。この大変化は企業内育成に対するスタンスにも変更をもたらすことになる。
  一昔前までかつての日本企業の育成現場では、“若手・新人は未完成で未熟である”ことを大前提としていた。これは一人ひとりの若手・新人の「伸びしろ」=可能性に対して期待を持つことができたということでもある。このため職場のOJTを通した育成現場では「若いころの苦労は買ってでもせよ」的な精神論が善くも悪くも罷り通ってきた。

  若手・新人の「伸びしろ」=可能性に対しての期待は、一方で今日では合理的とは思えないような職場における意味不明の職場ルールや職場常識を発生させることにもつながった。時としてこれは理不尽なルールや常識と化していたが、若手・新人はある一定の許容の範囲で順応してきた。これは職場のルールや常識からはみ出すことが本人にとって得策ではなく、同質性の高い集団の中での競争によるパフォーマンス発揮を目指すことの方が安全でもあったからである。
 ビジネスツールが携帯電話、パソコン、インターネット、そしてスマホの普及によって仕事のやり方は大きく変化してきた。今後ともAIは従来のビジネス手法を凌駕し急速に転換させることになる。残念ながらこうした変化に対して人間の意識変化は鈍いものである。むしろ抵抗さえするものである。そこで直接的に若手・新人の教育に責任を持つ現場のマネジメント層が先ずもって心がけなければならないことは、自らの過去の成功体験と経験則を捨て、若手・新人を旧来の職場のルールや常識の枠に当てはめて思考する行為を戒めるということだ。これは、とりもなおさず“過去の自分の就労意識を捨てる”ということである。

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