2023年10月30日号
他者評価においては目立ちやすい特徴に引きずられて、他の特徴についての評価が歪められる傾向がある。この種のことは中途採用でありがちなケースだ。本来の判断基準は自社にとって必要な職務能力や要件を満たしているか否かである。しかし、本来学歴など関係ないはずなのに、有名大学を卒業しているという理由で「優れているはずだ」と思いこんで採用してしまう…。
新卒採用において批判が絶えない企業による大学名で選考時にふるいをかける「学歴フィルター」もその亜種ともいえる。個別企業の新卒採用においては、過去の自社社員の行動特性や評価などの分析から学歴と仕事の出来の関係性が読み取れる場合もあるだろう。しかし、一般的に目立ちやすい特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる現象が「ハロー効果」(光背効果、後光効果)と呼ばれていることは広く知られている。
採用に限らず仕事の現場では上司がこの「ハロー効果」に注意していなければ、自分の仕事ぶりと部下の仕事ぶりを客観的に見比べることができなくなる。上司は自分が持ち合わせていない能力を持っている部下に対して過度な評価し、逆に自分には簡単なことでも上手く出来ない部下を過少に評価する危険性が常にあることを自覚しておく必要がある。
人は常に自分基準で他者を判断しがちだ。しかし、企業組織では特殊な専門性が求められている部門を除いて、部門間連携を中心にした組織的な協働なくして成果を生み出していくことはできない。仮にある側面で十全な能力を発揮できない者であっても、他の側面で他者を凌駕する能力を発揮する場合もある。
自分の部下にミスは少ないがマイペースでしか仕事ができないタイプがいたとしたら、どう評価をくだすだろうか。「あいつは仕事が遅くてダメだ」とマイナスの評価をするか。それとも「仕事は遅いが、確実にこなす」と考えるか。人は自分と同じ行動特性を持っている者や、同じものの考え方をする者に好意を持ち、理解を示しがちだ。こうした傾向は、ある意味で当然でもある。しかし、これが高じてくると画一性の弊害が生まれてくる。
今日では組織において多様性が重要視されることについて論を待たない。むしろ、単一的思考や同一性の高い集団による硬直性が持っている危うさや弊害が強調されている。就労現場において自分と同じ思考や価値観の者ばかりを評価し、自分と異なる特性を持った者を排除し始めたならば組織は成立しなくなる。
職場において上司が部下に対して過度に同一性を求め始めるならば、自分と意気投合する部下以外を排除したりし始めることになる。そして行くつく先は組織の「派閥化」を招くことにもなる。当然、組織全体の活性化は損なわれ活力が失われることになる。さらに、上司が自分の基準だけで部下の仕事ぶりや行動を評価するならば、自分自身の思考の幅を狭めてしまうことになる。同じ思考パターン同士が集まった組織は、一見するとまとまりがよく見える。また“阿吽の呼吸”で組織が上手く機能しているかのような錯覚も生まれる。
“阿吽の呼吸”という空気感が職場組織に蔓延することは実に危険なことである。本来、組織とは自分と異なる考えを持っている者同士が、違いを尊重しつつ意見をぶつけ合い新たな方向を見出すことで、既成の枠にとらわれない新たな発想が生まれる。自分の基準に囚われず、組織内の異質な個性を評価できる姿勢を持つことが、自分のみならず組織全体のモチベーションアップにつながる。一方で“阿吽の呼吸で回っているかに見える組織には、職場ルールも曖昧化し始めている危険性を疑う必要もある。
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