2022年04月18日号
企業を取り巻く経営・市場環境が不安定で不確実、かつ複雑にして曖昧模糊で混沌とした状況である「VUCA(ブーカ)の時代」といわれて久しい。2020年からコロナパンデミックはこれに拍車をかけてきた。そして2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、1991年以降あたかも単一市場化したかに見えていた世界の流れを巻き戻しているようにさえ見える。
仮にロシアによるウクライナ侵攻やコロナ禍が一定の収束に向かったとしても、残念ながら世の中は元に戻るわけでもない。まして「今まで通り…」という予定調和が通用するわけでもない。さらにいえば日本のかつての経済成長の幻影に固執することはできない。こうした時代において改めて問われるのは、企業の存在理由とそこで働く一人ひとりが自らの立ち位置を明確化することだ。
世の中が大きく変化し再編する過程にあって企業組織で働く者が問うべきことは、自らが「時代の主人公」として如何にして立ち振る舞うのかという視点だ。これは単純に自らが「雇用されている身」という視点に留まってはならないということでもある。あくまでも独立した一人の個人として、社会や会社組織と向き合うというポジティブな思考が必要になってくる。
社会や企業組織と向き合うとは、自分の属している企業組織が“何のために世の中に存在しているのか”“企業組織の一員としての自分の果たすべき役割は何なのか”について考え抜くことである。そして“自分が企業で行っている仕事には何の意味があるのか“自分の仕事は世の中に対してどのような価値を提供しているのか”と自問自答をくり返すことである。さもなければ変化し再編される過程にある社会の中で根無し草のように浮遊してしまうことになる。
世の中が変化し再編される過程は第4次産業革命と形容され、当然のことながら日本の産業構造も大きく変化する。喧伝されている第4次産業革命では急速に発達するAIによって主に肉体労働や「モノづくり」に従事する働きではなく、「知識労働」に従事してきた者を淘汰することになる。とりわけ「専門的知識」の活用と「論理思考」による判断は、AIが圧倒的に人間を凌駕することになる可能性が高い。
これまで「専門知識」と「論理的思考」という能力を武器にして仕事を行ってきた者の多くがAIの前では優位性を発揮することができないことになる。恐らく、これまで「高度な専門職」と思われてきた職種も例外ではないであろう。第4次産業革命の進行過程では、働く者一人ひとりにAIに駆逐されない働き方と能力を自ら探求し、先取していかなければならないことを要求されるだろう。
最近では何かにつけて「ジョブ型雇用」への雇用システムの転換が盛んに論じられている。確かに「メンバーシップ型雇用」の下では、企業が与えてくれた仕事を熟していくことで、一つの企業組織内で通用するキャリアを一定程度積むことができた。ことため、自分のキャリア形成にさほど悩む必要もなく、目の前の事柄に集中していればことが足りていた。しかし、今日では雇用形態に関わりなく自らのキャリア形成には自らが責任と主権を持たなければならないことになる。
キャリアも仕事も企業組織が与えてくれていた環境に浸っている者にとっては、大きな意識と思考の転換が迫られることになる。第4次産業革命の進行過程において現時点で「どのような職種や能力がAIに駆逐されないのか」などを考えることはさほど意味があることではない。常に「人間にしかできない付加価値」をどう生み出していくかを意識しながら、環境変化に対応できるよう「自ら考える」という力を駆動させていくことが必要となる。
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