2021年11月08日号
継続雇用者を活用する場合に第一に留意しなければならないことがある。それは退職時期に至る前から明確に継続雇用における、自らの果たすべき役割と課題をしっかりと自覚させることだ。何故ならば企業活動は慈善事業ではなく、企業存続の条件である利益を出さなければならないからだ。年齢に関係なく企業組織で働く一人ひとりは、利益貢献をしなければならない。雇用形態の差異はあったとしても基本的にこの関係は変わらない。利益に貢献しない(できない)者は、継続的な雇用契約が保障されない。
この道理は各種の新入社員研修のイロハで強調されるマインドセットでもある。このマインドセットを継続雇用で就労することを想定している中高年社員に施していかなければならない。一言でいえば「高年齢者雇用安定法」の改正により「自動的に働き続けることができる…」という意識ではなく、「利益貢献ができなければ継続雇用はされない」という意識への転換だ。
中高年社員に対しては、比較的早い段階から継続雇用を前提としない働き方の選択を促す必要もある。つまり、早期退職による他社への転職という選択を決断させるということだ。端的にいえば継続雇用後の自らの働き方、果たすべき役割と目標設定が明確にイメージできる者は、他社でも相応に通用するという自信があるはずだ。
同様のことは若手社員にもいえる。職務遂行能力や対人関係能力を含めた態度能力が十全に備わり、自分なりの将来設計に自信がある若手社員も存在する。こうした若手社員は、一社に留まるという意識が強いわけではない。自分なりのビジョンを持っている者は、躊躇することなく自分を活かす道を転職なり起業という形で開拓するものだ。
いまだに若手社員の早期退職に対し、苦々しい思いを抱く企業も多く存在している。こうした企業の現場では、転職していく者をあたかも「裏切者扱い」にするメンタリティーもある。これは「終身雇用」に毒された発想であるといっても過言ではない。むしろ企業の側には自社の業務内容に満足せず、新たなフィールドに挑戦を挑む者に対し「将来的にネットワークが広がることになる」との思いで後押しをする度量が求められる。
逆に転職を含めて新たな挑戦を欲する人材が自社に存在しないのであれば、そのこと自体を憂えなければならない。何故ならば組織体としての活性がなされていないことの証左ともとれるからだ。離職者が少ないことは逆説的にいえば、現状にしがみつく「ぶら下がり」予備軍が形成されているという捉え方もできる。「ぶら下がり」予備軍は、ほぼ間違いなく「自分は自動的に継続雇用に移行できる」という錯覚を抱くものだ。今日では企業にとってこうした人材が組織に堆積するリスクを避ける必要がある。
企業には継続雇用の年齢延長を踏まえて、従前の社員育成の在り方を再考していく必要が迫られている。つまり、終身雇用を前提にして長時間をかけた一律的な従業員の育成施策から脱却である。具体的には入社から定年年齢に至る過程において、例えば「前・中・後」の3段階を設定し、それぞれの段階で次の段階に「進むか、進まないか」を個々人に選択させていく必要もある。同時に企業の側が「進ませない」と判断をする場合があることも明確にする必要がある。
自らの果たすべき役割認知をすることなく「老兵は死なず…」との思いで組織内を跋扈する継続雇用者の存在は、若手・中堅の従業員にするならば迷惑千万で唾棄の対象にしかならない。結果的には若手・中堅人材の育成の桎梏となるだけでは済まされず、職場全体のガバナンスを崩してしまうことになる。継続雇用年齢の延長問題を契機に社内育成も若手・中堅の育成にシフトさせ、本人の主体的な意欲を前提にして一律を排した「選抜」と「選別」で展開していく必要がある。
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