2021年08月16日号
恒常的にテレワーク業務に移行している企業の実数は少ない。とはいえテレワークが日本の働き方を大きく変えてきているのは確かでもある。そして、テレワークは実質的に職場内での従来型の日常的コミュニケーションの機会を減少させてきた。また、現場マネジメントに携わる者が各メンバーの行動観察を行う頻度を奪っていることも確かだ。総じて、コロナ禍はこれまでの仕事のスタンダードを変化させることになり、個々のメンバーの労働実態が把握しにくい状況をつくりだした。
既にコロナ禍以前から始まっていた働き方の変化は、より一層単純な労働時間の長短による就労実態の把握をあいまいなものとするだろう。現場マネジメントでいえば指示の「出し方」と「受け方」にも変化が生じることとなる。最終的には各種の仕事の結果に対する評価基準も変化することになる。
テレワークは現場に対して今まで以上に仕事に対する厳密なマネジメント機能を要求することになる。ただし、これは単に「適切なタスク管理」の強化を意味することではない。多様な人材や多様な就労形態を活用して、今まで以上に組織求心力や組織力を高めていかなければならないということだ。この過程で個々のメンバーには「企業組織に積極的に関与し、コミットする帰属意識」が求められる。しかし、これは企業組織を「家族」と擬したりしながら「忠誠心」を強要するなどという陳腐なものではない。
あくまでも一人ひとりの独立した企業人としての立場・観点、そして役割意識を明確にさせていくということだ。企業組織が従業員に対して不用意に「忠誠心」等を求めることは、個々のメンバーへの役割期待とはかけ離れた情意に流されてしまうことにつながる。現場マネジメントがメンバーに期待すべきことは、企業組織の方向に自ら主体的に関わりながら、全体の業績に貢献してくれる働き方である
個々のメンバーのおかれている状況にはおのずと違いがある。組織への関与にも軽重があって当然である。このためすべてのメンバーに対して、均一的な帰属意識やまして「忠誠心」を求めようとする発想は、人事マネジメントとは無縁である。過度に企業組織への帰属意識を求めることで、結果として組織に「没主体的にぶら下がるメンバー」を生み出すことになっては組織力を発揮することなどできない。個々のメンバーに求めるべきは、あくまで自らの働きや仕事に対する主体的なコミットメントであるはずだ。
かつての安定した経営環境の下では、企業組織に過度に帰属意識を抱く集団が大きな力を発揮することもできた。しかし、今後とも安定した経営環境を期待することはできない。同時に帰属意識を求めるあまり「悪しき平等」に陥ってはならない。そこでメンバーに求めるべきは「働く意味づけ」や「働きがい」、さらに仕事から得ることのできる物理的・心理的両面の報酬、適正な評価を通した組織への貢献である。会社組織は個々のメンバーが生みだした「成果」に対し、正当で公正な評価を下すことが重要でありめんばーの求心力ともなる。
個々のメンバーにはそれぞれの成長段階で一人ひとりの職務能力に明確な差が存在している。この点を現場マネジメントはあいまいにしてはならない。悪しき平等性を排してこの違いをハッキリと認め、それを一人ひとりに伝えていく勇気を持つことが重要だ。同時に各段階を適時に把握しメンバーに要求すべき達成課題を明確に提示していく必要がある。この過程が組織とメンバーが「健全な関係」を形成していく「仕組み作り」や「育成」である。
当然、この過程では雇用調整の課題も発生してくる。個々のメンバーとの間での軋轢が生まれてくることも覚悟しなければならない。現場マネジメントがメンバーに求めなければならないのは、組織への一方的な偏愛的な帰属意識ではない。求めているのはあくまでも一人ひとりが「自律した働き方を追求していく」という意識や価値観である。別の言い方をするならば一人ひとりに経営者意識や感覚を涵養させていくことである。もちろん、そのためには現場マネジメントを司る者自身が、経営者としての意識や価値観を目的意識的に受容していく行動を取り続けなければならない。
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