2021年01月25日号
企業組織の成長を支える原動力は、業種・業態を問わず、独創的なアイデアや新しい仕組みを開発していく「創造性」と一人ひとりの職務遂行能力の蓄積だ。しかし、すべての従業員に職務遂行能力が十全に蓄積されるとは限らない。組織全体で一定の時間をかけたジョブローテーションが展開できれば、いくつもの部門を経験しながら個々人の得意分野を自他ともに見出し、職務遂行能力を高めていくことも可能だ。
しかし、こうしたローテーションの確立はいわゆる「メンバーシップ型雇用」には適しているが、「ジョブ型雇用」とは相性が悪い。一方で中小企業においては基本的に今も昔も「ジョブ型雇用」が主流である。何故ならばローテーションを施す余裕がないからだ。こう考えると「ジョブ型雇用」とは、日本の大企業型の雇用が結果的に中小企業型の雇用に移行する流れとも捉えることができる。
明確なジョブ・ディスクリプションに規定された雇用である「ジョブ型雇用」では、良し悪しは別として一旦配属された部署・部門に固定化してしまう傾向が否めない。ところで企業組織には一見すると中核的部署・部門や花形と呼ばれる部署・部門が存在し、得てして同じ組織にあっても周りから羨望の的となったりする。こうした部門・部署以外の者からは、自分の部署・部門よりも「花型」の部門・部署が羨ましく思えたりしがちだ。諺でいう「隣の芝生は青く見える」というやつだ。
こうした感情や意識が芽生えはじめると、いつしか組織の全体構成として自分の部門・部署が果たしている役割、ひいては自分自身の役割意識を減退させてしまう。さらには部署・部門間や個々人との間で、無用な対立関係を発生させたりもし始めるものだ。この軋轢は企業内にある種の階層化も発生させる可能性もある。そこで、「ジョブ型雇用」への移行においては組織内に階層間を往来できる透明性のある仕組みも必要となる。もっともいくら透明性のある仕組みが存在していたとしても、階層間の移行に向けた自らのキャリア形成が不可欠となる。
組織内部で軋轢が発生する要因は、主に互いに相手の仕事、仕事のやり方、重視している事柄や方向性の共有がなされないからだ。さらにいえば、「ジョブ型雇用」では業務内容の異なる者同士の間で、互いに相手の業務内容への無理解による相互無関心が発生する危険性もある。これは単に組織内のコミュニケーション不足というレベルではない。
「ジョブ型雇用」で鋭く問われ始めるのは組織を構成する一人ひとりが、それぞれ自らの仕事の役割を自覚したうえで、組織体に課せられている共通の目的と協働意欲を目的意識的な追及にほかならない。つまり、部門・部署や業務内容に関わりなく、互いの業務内容を通して信頼感と理解し合う関係性づくりが不可避となり、より一層の組織性が求められる。
信頼し合う関係性とは、周囲との関係についてそれぞれ責任ある役割を果たすということでもある。こうした関係は決して「馴れ合い関係」を意味するものではない。それぞれが仕事上で自分の果たすべき役割において、成果を出していなければ成立しないものだ。
「ジョブ型雇用」とは、それぞれの成果に裏打ちされた関係がなければ、どんなにコミュニケーションが取れている組織でも、それは砂上の楼閣になる。企業組織は様々な部門・部署の有機的なつながりで成り立っている。そして互いを公正に評価し合う関係が組織力となる。
「ジョブ型雇用」とは自らに与えられている業務の役割を明確に自覚した働き方への移行であり、「メンバーシップ型雇用」において組織内に埋没することが可能であった企業組織へのただ乗りである「フリーライダー」は許されないということだ。
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