2020年10月12日号
企業組織ではいくつもの部門が存在している。そして大小の差はあるが各部門では基本的に縦割りで機能してきた。そして同じ企業内でありながら、あたかも一つ一つが独立しているような状況に陥り意思の疎通がなされないケースが多い。また、規模の大きな組織では互いに部門間や事業部門間で凌ぎを削り合うようなことも発生する。
しかし、こうした部門間や事業部間の意思の疎通を欠いた関係は、コンフリクトを生み出し結果として全体の利益に合致しない。それは部門同士の軋轢が「切磋琢磨」とは逆に部門同士の責任のなすり合いに陥る危険性があり組織の力を半減させてしまうからだ。
一般的に部門間や事業部間の軋轢としては次のような現象としてあらわれるものだ。基本的には自部門の最適性を重視した全体最適性を顧みない不満や嫉みに類する内容だ。
・自社の営業部門は売る努力をしていない。
・自社が他社に出遅れているのは、開発部門の力が弱いからだ。
・自社の販売戦略が一貫していないのは、経営企画部門が怠慢だか
らだ。
・営業部門は無駄な経費が多い。
・自社の管理部門は会社利益に直結していない。
・自分の事業部門が自社の稼ぎ頭だ。
これらは単純にいえば「自分たちはこんなに努力しているのに、
他の部門に足を引っ張られている」と思い込むという傾向だ。特に部門の責任者がこうした「思い込み」に囚われているならば、いつしか部下にも浸透し、部門間のセクショナリズムを強めていくことにつながる。
部門間や事業部間の関係が健全な競争意識を駆り立てることもある。しかし、往々にして、同一組織において内向な関係を創り出すことになる。これらは組織にとって「百害あって一利なし」であり無意味のものだが、当人同士にとってはいたって真剣だ。極端にいえば企業組織内の対立や争いは、外部の顧客との緊張関係を伴わないため、「コップの中の争い」に過ぎないが、楽しく展開されるものだ。
確かに部門や事業部門ごとの得手不得手は企業の歴史的な経緯から存在することもある。自部門の取り組み実績をベースにしたならば、他部門への改善課題の指摘などはあるだろう。しかし、それはあくまでも「全体的な視野から何をどうすべきか」という発想に基づいた指摘でなければならない。物事がうまく進まない責任を、特定部門の責任に転嫁することは勘違いもはなはだしい。そして残念ながら企業全体の業績に陰りが出始めると途端に自部門を守るために他部門の欠点をあげつらい、批判や攻撃を始める傾向もある。
組織の全体最適性からするならば、この種の傾向は無駄にエネルギーを浪費していることになる。この種の傾向に陥らないためにまずは、自分の果たすべき役割をしっかりと認識することだ。視野狭窄に陥ることなく自部門からだけの立場ではなく、あくまでも市場と企業組織の関係をしっかりと捉えなければならない。同時に企業組織全体を俯瞰して自部門と他部門の関係をしっかりと理解するという視点が必要ということだ。
企業組織を構成する一人ひとりが自部門の利益や評価のために行動するのではなく、企業組織全体をいかに効率的展開していく思考は、ダイバシティ&インクルージョンの実践でもある。企業組織で仕事を行うということは、他者とともに働き、他者の力を借りて成果をあげるということだ。自分自身が他の部門の人びととの関係にしっかりした責任を持ち、経営視点で大所高所からモノを見て行動する姿勢を堅持していかなければならない。
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