2019年08月05日号
一般論だが上司は部下を使う立場にある。企業組織のなかでは、上司と部下は、「上位の人」と「下位の人」の関係にある。単純にいえば上司は部下を動かす職務権限を組織から賦与されている。しかし、この付与されている権限を誤解して部下を私物化する上司が後を絶たない。上司は会社から部下を動かす役割を与えられているのであって、上司の個人的なパワーで部下を動かしているのではない。
上司が思いつきで部下に指示を出しても、部下はその通りに動いてしまう。これが積み重なると、部下は当然のことながらやる気をなくす。「上司の力」の使い方しだいで、部下は良くも悪くも変わるものである。大切なことは部下を伸ばすために、その力を公正に使うことである。
上司の責任は重大である。上司の役割は「部下を上手に使う」ことだけではない。部下に上手に「使われる」ことも、上司の大切な役割のひとつである。部下に使われるとは、上司としての自分の力を部下に利用させてあげるということである。企業組織の仕組みの中では、部下がどんなに意欲を持っていても、できない仕事がある。
こうした局面で上司の側が部下に代わって、権限を行使して部下に仕事をさせることが、「部下に使われる」ということである。これは、部下に対して「上司のパワーの使い方」を教えることでもある。例えば自分の思いを実現していくためには、どのような提案であれば採用されるのか等を具体的に示すことだ。こうして、部下は上司を通じて組織を動かすことを学んでいける。
同時にこれは「企業での仕事のやり方と組織の仕組みを教えること」でもある。上司を使うことは、単に「虎の威を借りる狐」になることではない。当然のことながら上司を使うことによるリスクも自覚させなければならない。何故ならば部下の失敗は上司の責任であるという原則があるからだ。
部下に対して失敗のリスクを十分に考えさせ、検討させたうえでチャンスを与えることが、上司の大きな役割の一つである。上司は仕事でチャレンジしようとする部下には、最大限の支援しなければならない。部下は上司からの支援によって業務遂行能力が向上し、結果的に企業組織を支える人材に育つことになる。
上司は部下が「もっとよい仕事がしたい」と思わせるような、前向きな働きかけを恒常的に行っていくことが必要である。積極的に上司に教えを乞おうとする部下もいれば、寡黙で内向的な部下や積極的にコミュニケーションが苦手な部下も存在する。そもそも企業組織とは、生まれも育ちも異なる者の集合体である。つまり部下も千差万別である。
上司が部下と接する場合にはまず「一人の人間として部下を肯定する」ことを基本スタンスにしなければならない。その上で、部下をどう伸ばすかを考えることが、上司の役割である。それが上司の力の正しい使い方の出発点である。
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