2017年09月11日号
現場マネジメントが意外と忘れがちなのは、「企業は自社の成長段階にそって、求める人材要件も変化する」ということだ。時として現場マネジメントでは過去の経験則という枠組みに固執する傾向がある。このため、いつまでたっても「今年の新入社員は…」という評価ともつかない愚痴が横行することになる。
この愚痴の行き着く先は、従前からの人材基準で個々の人材を判断するということになる。あるいは、この逆に優秀な学歴やキャリアを有してさえいれば、「即戦力として通用するはずだ」という“思い込み”となって表出する。この結果、採用した人材に対する期待感が僅かの間に落胆に転化してしまうことにもなる。
現場マネジメントが人材の採用(中途採用を含む)や育成で注意すべきは、一人ひとりの人材の職務能力と配属する部門・部署の職務内容のバランスである。とりわけ中途採用では採用した後に「他社では十分機能していた人材なのだが、自社ではさっぱり機能しない」という状況がよく発生する。
この原因は往々にして「オーバースペック」にある。つまり、担当してもらう職務内容が必要とする能力・技能以上に高い能力を有した人材を採用してしまうことだ。実際に配属する現場が「定型業務を過不足なく、しっかりと行うこと」が要件であるにもかかわらず、それ以上の職務経験のある人材を採用して配属しても意味がない。もちろん、配属する部門・部署の職務内容を遂行するだけの職務能力を持たない人材を単に「人柄がよさそうだ」などという理由で採用するのは論外である。
現場マネジメントが人材育成で基本とすべきは、独立(independent)心と自律(self-control)心の醸成である。従って、最初から抽象的で恣意的な「優秀さ」を求めても意味がない。何故ならば、一人ひとりが最初から必ずしも自社の現状や組織体制にとって必要十分な条件を備えているとは限らないからだ。また、企業の成長・発展段階によって、必要となる人材の要件は変遷してくるものだ。
このため、現場マネジメントが求める人材要件も状況によって変化させて、常に自社の現状分析と連動させるという発想が必要となる。現状で不必要なオーバースペックの人材を採用すれば、その人材は飽き足らずすぐに転職することになる。逆に職務能力が不足している人材を採用してしまえば、配属先の既存社員の足を引っ張るなどの結果になる。従って育成には“仕事の定義”を明確にしていくことが極めて重要になる。
企業組織を構成している個々の人材は育ってきた時代背景が異なっている。企業組織は異なる環境や状況の下で育ってきた世代間を横断した人材による機能体組織であることをわすれてはならない。このため、企業内での業務実践を通じて適正や職務能力を精査、検証、評価していくことが育成でもある。現場マネジメントの人材育成課題とは、会社の方向性と個々人の「働く価値観」とのベクトル合わせにほかならない。
最初から同一性を求めることではなく、「教え、育む」ことを前提にして、自社への利益貢献と個々人の成長との融合をさせていく意識形成ということである。当然のことながらこの過程は現場マネジメントにとって有形無形の“コスト”が必要になる。
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