2016年02月29日号
新卒採用を行っている企業は何がしかの新入社員研修を実施する。4月に入社した新入社員は一定の研修を経た後に現場に配属される。新入社員研修の内容は企業によって異なるだろうが総合的で直接的に配属部署の業務とはかかわりがない内容となる。従って、新入社員に対する実践的研修は、現場に配属された後に展開される上司・先輩によるOJTが勝負となる。この段階で現場マネジメントの側は、新入社員に対して「なんだ、こんな基本的なことも分からないのか…」という驚愕の事実に直面することになる。そして、この段階で“なぜ、こんな新人を採用したのか”“新入社員研修で何を教えたのか”と採用や研修担当者に愚痴をいいたくなる衝動に駆られるのが常だ。
しかし、現場マネジメントの側が改めて「育成は現場の責任」であり、それを司るのは現場におけるOJTであるという鉄則を忘れてはならない。何故ならば採用や研修担当者に対する愚痴は、直接的に現場マネジメントの無能を自己暴露することになるからだ。
新入社員研修は一般的に学校生活と職場生活の違いを強調し、職場のルールやマナー遵守を刷り込むことを基本にして構成されている。また、組織という集団による意思決定の重要性や効果的な仕事の進め方、さらに指示・命令の受け方、報告の仕方などについて、ロ−ルプレイを駆使して実施される。もちろん正しい言葉づかい(敬語)や電話のかけ方・受け方、ビジネス文章の書き方などの内容が展開される。
これらの内容は一般的であり、「即戦力化」に向けた促成栽培ではなく、あくまでも「型はめ」的な要素に過ぎないものだ。このため現場マネジメントにとっては、配属されてきた新人の所作から新入社員研修が“現場実践と合致していない”と思いがちになるものだ。
一方で新入社員の側は仕事を覚えるという感覚よりもむしろ、“自分を伸ばしたい”という願望が強く、しかも“すぐ結果を出したい”“自分が伸びている実感を得たい”という意識を強く持っている。しかも、“会社が自分の能力を高めてくれる”ことに期待し、周囲から“認められたい”欲求を持ちながら現場に配属されてくる。このため、配属された後に自らが抱いていたイメージと現場の日常業務との乖離に苛まれることになる。
現場マネジメントは入社早々に会社が全新入社員に実施する「新入社員研修」に過度な期待を持ってもならない。ましてや新入社員研修に新人の育成を仮託してはならない。いくら新入社員研修を実施した後に現場配属になったとしても新入社員は、往々にして「木を見て森を見ず」で、“小さなことに目が行って、全体を見通せない”ものである。
入社直後に実施する新入社員研修は、単なる端緒に過ぎす“本当の研修は現場配属によるOJTから始まるものだ”と覚悟しなければならない。
たとえば現場マネジメントから見て新入社員が“今やらなくてもよい優先順位の低い仕事”に没頭しているように見える場合もある。しかし、自分が行っていることが、会社業務の全体を俯瞰して、“どのような位置を占めているのか”などを自分自身で判断できる新人は極めて稀である。こうした新人に対していくら「仕事の優先順位を理解していない」と小言をいったところで意味がない。
現場マネジメントの側が先ず行わなければならないことは、新入社員に対して手取り足取り、一つ一つの仕事の意味づけして教えることだ。新入社員に対して仕事の意味づけを行うことなく単に「見て覚えろ」式のOJTを繰り返しているならば、早晩、仕事の目的や目標さえも見失い漂流することになる。
現場マネジメントが行わなければならないことは、新入社員に対して目標に向かって成長していく実感を与え続けることである。たとえば、一つ一つの仕事の成り立ちや業務フローを中心にして、仕事に不可欠な基礎的な言葉や業界内で話題、さらには情報収集のやり方などをこまめに教えて、反復実践を通してスキル化させていくことである。
この行為を厭うならばOJTの放棄になる。また、新入社員の育成は、“自らが自分の頭で考えて行動することが成長への道である”という実感を与えることである。こうした新人育成は、新入社員研修の任務ではなく現場マネジメントの専権事項であり責任でもある。
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