2015年08月10日号
管理職は部下指導において「安全配慮義務」という責任を負わなければならない。安全配慮義務とは、1970年代中盤以降に最高裁の判例法理によって導き出さ、労働契約法により「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と条文化された。
条文では「使用者」となっているが、管理職は当然ながら経営権の分担行使者である。従って、管理職にも業務上で発生する生命、身体、健康などの災害から部下である従業員を保護する義務が課せられていることになる。
職場の安全とは単に生産現場で発生する事故防止だけを指しているわけではない。バックオフィス業務を含むすべての職場という意味だ。とりわけ管理職は、安全配慮義務の観点から日常的に職場での就労環境面への配慮が不可欠となる。つまり、従業員が快適に職務を遂行していくために職場を管理する義務を怠ってはならないということだ。管理職はセクハラ、パワハラ、いじめ等の事前防止の義務を負うということだ。仮に発生した場合には、適切な措置を講じなければならない。
当然ながら長時間労働の是正も当然含まれ、部下のメンタル面の配慮も怠ってはならないということだ。このように位置付けるならば安全配慮義務とは“現場マネジメントが行う労務管理そのものである”といっても過言ではない。
従業員への安全配慮義務は次の3つの条件に該当することによって災害が発生した場合には、「配慮義務を怠った」とみなされることになる。
1.災害の可能性を予見することができた。
2.災害を回避しようと思えば回避できたが怠った。
3.災害と安全への配慮の欠如には因果関係が認められる。
安全配慮義務は、物理的な事故などの労働災害などに限定されるものではない。生命や身体などの安全の中には、精神面、心身の安全も含まれ、長時間労働による過労が原因の疾病、パワハラによる「うつ」の発症など、上記の3条件に該当すると会社のみならず現場の管理職も「安全配慮義務」違反に問われることになる。
無駄な残業を繰り返す部下を放置していたが、ある日、その部下が“長時間労働がもとで健康を害した”と主張した場合にも「安全配慮義務を怠った」と認定される場合があるということだ。
管理職は、安全配慮義務違反が問われるのは会社だけではなく、“管理者自身である”と自覚しなければならない。これは最近のこの種の訴訟実体からも明らかで、災害が発生すると会社のみならず直属の上司である管理職が民事訴訟で損害賠償の対象者となるケースが拡大している。
このように安全配慮義務は単に人事、労務担当の責任ではなく現場マネジメントの問題として捉えなければならない。管理職は結果の発生について、予見し、あらゆる可能性を考えながら、部下への業務指導を強化しなければならない。
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