2024年01月29日号
日本の総人口は2008年までは増加していた。しかし、2009年以降、急激な減少過程に入っている。出生数の減少を受けて、65歳以上の人口割合である高齢化率は、1990年の12.1%から2005年に20%を超え、2023年は29.1%に上昇している。
総人口の長期的推移も昭和が人口の激増期だった。平成に入るとピークアウトし急速な高齢化の時代が始まった。そして、2060年の総人口は1960年頃の総人口とほぼ同数の9,000万人を割り込むとされている。単に人口が減少するだけであれば問題ない。しかし、問題となるのは、高齢化率が1960年当時の5.7%と決定的に異なることだ。正に「人口オーナス(負荷)」である。
「人口オーナス(負荷)」の対局にあるのが「人口ボーナス」である。日本の高度経済成長期はこの「人口ボーナス」の時期であった。人口ボーナス期には人口が増加し、生産年齢人口が多くなり経済も発展をする。この時期には画一的なビジネスモデル、画一的な働き方での成長ができる。極めて単純化するならば日本の1960年代からの人口増加は、経済成長と軌を一にしていた。ただし、人口ボーナス期は一度しか訪れない。
経済が成長することで一定の水準で所得があがり、消費行動も成熟化するならば、少子化の現象が現れる。高齢化のスピードが速く、レベルも高い日本は「人口オーナス」の度合いが国際的に際立っている。今や日本は人口ボーナス期から人口オーナス期においても“ジャパン・アズ・ナンバーワン”になっている。
戦後日本経済の経済成長の要因を分析し、それを支えたとして「日本的経営」が高く評価された時代があった。「日本的経営」の是非はともかくとして、この時代を中心になって支えた世代は、既に現役世代ではない。しかし、多くの企業の現場マネジメントにおいて、この世代の成功体験的メンタリティーは今日の50代前後の世代に残念ながら負の遺産として受け継がれている。確かに今日の50代前後の世代は直接的には経済成長期を経験していない。むしろ“失われた○○年”の時代を生きてきた。ところが企業内で今日の50代前後の世代が若手といわれていた時代に指導責任を負っていたのは、1960年代から1970年代の経済成長を支えた世代である。
当然のように指導の根底には経済成長期の価値基準や意識が横たわっていた。この企業内の教育で培われる意識形成は極めて根深いといわなければならない。つまり、乱暴に言うならば今日の50代前後の世代は、高度成長の主体的な体現者ではないが、先輩諸氏から語り継がれ刷り込まれた意識を耳学問的に凝縮して受け継いでいる。残念ながらこの意識で安易に今日の若手世代に接したならば大きなハレーションを起こすことになる。もっとも先輩諸氏からの意識を拠り所にする他に術(ロールモデル)がなかったのも現実である。このため今日多くの企業現場では50代前後の世代の織りなす諸行動が「昭和的マネジメントスタイル」として揶揄の対象となり始めている。
これまでも企業経営を取り巻く社会・経済・政治環境には幾多の転換期が存在してきた。しかし、もはや安定的で連続的な「成長」という暗黙の前提が崩れたことだけは確かである。変化の激しい時代にいつまでも過去の成功や経験、慣習に固執していては、個人も組織も立ち行かなくなり陳腐化する。今までは常に成長を前提にして「現状に満足した企業と個人に未来はない」という表現で自らを鼓舞することができたが、これからは「自らを変えなければ企業も個人にも未来どころか現在もない」という時代に入った。実はこの種の感覚は、今日の新人・若手社員の方がよりシビアに感じている。
懐古に耽り“前例”に従い、安定・安心して仕事をしていたと思考しても、他の視点からするならば、全く変化なく、同じことを繰り返しているだけに過ぎないことになる。これからは、自分自身の仕事や組織に対して「これまで何とかやってきた。何とか逃げ切れるのではないか…」と感じ始めたら、それは危険信号である。このように思った途端に、自分の成長も組織の伸びも止まる。ドラッカーの名言ではないが「昨日を捨てよ!」ということだ。
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