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週刊Neue Fahne

2023年07月10日号

マネジメント行動の再検証-8-自らが成長に責任を負う当事者

 一昔前のことだがある調査機関が企業で働く者を対象にして行ったアンケート調査に「もし、あなたに一生涯不自由なく生活していけるだけのお金があったならば、仕事を辞めますか。辞めませんか。」という項目があった。この質問に対してアンケートに答えた全体の約7割が、「辞めないで働き続ける」と答えた。仮に「働くこと」が単純に「お金のためだけ」であると考えるのであれば、アンケートの回答が逆になっていても不思議ではない。 
  つまり、「お金がある。だから働かない」という図式だ。これまた昔のことだが別の調査機関が行ったアンケート調査では、「あなたは自分の年収がどれだけあれば満足しますか」という質問への日米比較を行っていた。この問いに対する日本人が満足すると答えた平均額は2500万円前後であった。ちなみにアメリカ人の平均額は3000万円程度であったという。

  日本で年収2500万円といえば相当な額であることは確かだ。しかし、考えようによってはアンケートに答えた人びとは、自分の年収を決して「青天井」にしたいとは考えていないということでもあるのではないか。つまり、お金だけを自らの働きに対する判断基準にはしていないということだ。ヒトは社会との関わりなくして存在することはではない。つまり、自らの働きが社会と繋がっていることを自覚することで、自らの存在を社会に対して証明することができる。
  アンケート回答者は「働かなくとも一生涯お金に困らない、だから働かない」という図式であるならば、“社会との関わりを自ら閉ざすことになる”ということを潜在的に感じ取っていたと捉える事ができる。ところで、最近では経済的に自立し、早期リタイアを実現する「FIRE(ファイア)」が若者を中心にムーブメントとなっているといわれて久しい。しかし、このムーブメントも早期リタイア=社会との関係を断つという意味ではないのだろう。現に企業勤めからは早期リタイアしているが、一定の余裕を持ちながら社会活動に従事している若者も多い。

  仮に早期リタイアを実現することが可能となったとしても「ヒト」は、「働くことを辞める」という選択肢をとることはないだろう。なぜなら働くということは、社会との繋がりを自覚できる行為であると同時に“成長を求める”という願望や欲求とも密接不可分だからだ。「ヒト」が社会的動物のである以上は、成長したいという願望や欲求がなくなることはない。そもそも、「ヒト」は、お金だけを求めて働いているのではない。
「ヒト」は働きを通して自分の“成長”を勝ち取っていくものである。もちろん清貧であることが美徳であるという訳ではない。「FIRE(ファイア)」を志向しつつも少なくとも企業組織で働いている以上は、企業が自らの「成長したい」という願望や欲求を満たす最良の“場”であると位置づける必要がある。つまり、企業組織という「場」を最大限に活用するということだ。

  最近では「ヒト」は資源ではなく「資本」であるという考え方が定着し始めている。確かに「ヒト」は他の経営資源と異なり、意図的に作り出すことができない。また、その「質」について強制的に外からはどうすることもできないものだ。企業組織も様々な環境に対応して変化するため、その時々の不備や欠点はいくらでもある。しかし、こうした点を批判しても自分自身の成長には全く無意味である。まして、成長ができない原因を取り払ってくれないのは、企業(上司)の側に責任があると一面的に考えるのはお門違いである。
  個人の能力発展や開発という成長は、あくまで自分自身が行わなければならない。そもそも成長とは「出来なかった事柄」が「出来るようになる」ことである。この意味で仕事を通した自分の成長には、自分が責任を持って取り組むということだ。自分の狭い価値観に閉じ籠ることなく、自らが“成長に責任を負う当事者である”と自覚し、常に自ら立てた目標設定と業務習得に向けた学習・訓練を必ずリンクさせる姿勢を堅持しなければならない。

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