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週刊Neue Fahne

2022年10月31日号

現場マネジメントが担う部下育成課題 -8- 組織や上司への私心なき「諫言」の奨励

コンプライアンスが重視される時代になって久しい。コンプライアンスはもはや単に法令を守るという意味ではない。社会規範や社会道徳、会社の利害関係者(ステークホルダー)である株主、経営者、従業員、顧客、取引先などの利益や要請に応えるという意味として定着してきた。ところでコンプライアンス違反行動は違反を起こす当事者の環境と本人との相互作用の中で発生するものである。
  コンプライアンス違反を犯した者による「組織の上位者からの指示で断れなかった」との弁明に対して、第三者からすれば「なぜ断れなかったのか」と不思議に思うものだ。しかし、それはその状況の中に第三者がいないからそう思えるのであって、渦中にいる当事者の心理はそう簡単には断れない環境や状況の圧力が働くのも事実だ。

  自分が「社会の要請に適応する」うえで絶対に必要だと思ったならば、環境や状況の圧力を跳ね除けて、自らが属している組織や上司の思考・行動に対して「諫言」(かんげん)することは、組織を構成する者としてのつとめである。「諫言」とは、目上のひとの非を説いていさめる行為だが、私心があってはならない。また、自分自身が組織の方向について、確固たる信念がある姿勢で仕事をしているという前提が必要となる。
  私心や信念のないものは諫言といわず、単なる否定や批判、評論に過ぎないということも忘れてはならない。コンプライアンス問題に限らず、組織や上司の考えや計画を自分自身が熟慮して「これは危ない」と感じたときに、見過ごしているようでは「自己保身」になる。一方で組織や上司に「諫言」するといっても、自分の考えや思いを後先考えずに口に出すだけでは逆効果にもなってしまう。

「諫言」には二通りがあるといわれている。第一は遠慮なく相手の非を指摘する「直諫(ちょっかん)」。第二は相手に対して他のことによせてそれとなく婉曲的に指摘する「諷諫(ふうかん)」。いうまでもなく「直諫」は行うのは簡単であるがむしろ反感を招くだけだ。つまり受け手がよほど優れた度量の持ち主でなければ通用しないものだ。
「諷諫」は相手の立場を慮りながら相手の考えに対する正反の両側面からの功罪を説明し、何かに例えて善悪や損得を述べるというものだ。「諫言」は相手を全否定することでもなければ、個人攻撃でもない。相手が必ず理解してくれる道筋をしっかりと見極め、理解してもらう真摯な態度が必要になってくる。

「諫言」はおこなって終わりというものではない。むしろ事前の準備が不可欠ということだ。自分が組織や上司に対して熟慮して「モノを申す」ということは、そのままにしておくと最悪の事態となり、大きな損出を想定した上でのことだ。従って、事前に自分の権限の及ぶ範囲で、各部門に細かく目を配って対策を練っておくことが重要となる。
  これは危機管理の意識と密接不可分ということだ。「諫言」は組織や上司を声高に非難することではない。万一の場合にいつでも動き出せる体制を整えることが大切だ。組織では情報が円滑に流れないために判断を誤るケースが往々にして発生する。そこで組織や上司への「諫言」に至る前に、社内での情報の流れ方を総点検することも重要となる。こうした日常行動を最優先にした「諫言」は、必ず組織貢献につながるものである。

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