2021年03月08日号
テレワーク下で盛んに上司と部下の関係性が論じられるようになってきた。しかし、テレワーク下であろうと「職場内勤務」の下であろうと上司と部下の関係性は基本的に変化したわけではない。一言でいえば、自分も相手もともに肯定するという「健全な人間関係」が築かれているか否かが問われているだけだ。
つまり、対人関係の基本であるのは「上司が部下を肯定する」ことである。テレワークになって「部下との関係性がギクシャクし始めた」と感じる上司は、そもその「テレワーク以前に部下との関係性がいかなるものであったのか」を反芻する必要がある。
企業組織において上司と部下は、「上位の人」と「下位の人」の関係にある。従って、上司は部下を動かす権限を持っている。言い換えれば、上司は企業組織から人的経営資源という大切な部下の活用を託されている。部下を動かす権限としてのパワーが会社から与えられているのであり、上司の属人的なパワーが部下を動かしているのではない。
このパワーはあくまでも会社から与えられた「役割」である。上司はこの基本スタンスを明確に意識しなければならない。企業組織において上司にとっての部下は、個人的な上下関係ではないということだ。
上司にとって部下との関係は、あくまでも業務においての関係に過ぎない。今日では組織内での上下関係が必ずしも年齢階層によって形成されているわけではない。つまり、自分より年長者の部下が多数存在している。この傾向は高齢者雇用が一般化する過程でますます増加する。この関係では上司の側が部下に対して「若く未熟で業務能力が低い」というステレオタイプが通用するはずもない。
また、必ずしも上司の方が経験豊かで仕事ができるとは限らない。むしろ年長者の部下の方が様々な意味において経験が豊かに蓄積されている場合がある。上司の側が注意しなければならないのは「自分が優れているから、部下に指示・命令をする権限がある」という錯覚に陥ってはならないということだ。あくまでも上司という役割を果たすためにパワーが会社から貸与されているのである。この関係性を認識していなければ上司は「裸の王様」に陥ることになる。
会社組織に限らず組織体では仮に上司が思いつきで部下に指示を出しても、部下はその通りに動いてしまう。何故ならば部下が上司の指示に従わなければ組織体は成り立たない。この関係性がなければ組織体は単なる烏合の衆団になる。しかし、上司の思いつきの指示が積み重なるならば、当然のことながら部下はやる気をなくし面従腹背になる。上司による誤ったパワーの発揮は、部下との関係性を悪化させるだけである。
上司の使命は与えられた役割というパワーを用いて、組織としての成果を達成していくことにある。この過程で預けられた経営資源である部下の力を最大限に発揮させるため、部下を肯定しつつ部下との良好な関係性を確立していかなければならない。部下を肯定するとは部下に迎合することとは全く次元が異なることである。部下との関係において重要なことは、組織を構成する一員として部下の存在を認めるということである。その上で、組織目標の達成に向けて、部下の個々の能力を最適に組み合わせていくために自らのパワーを発揮していかなければならない。
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