2017年09月25日号
今日では“人事・労務課題は人事部門の専権職務分掌である”という認識は通用しない。現場マネジメントこそが“人事・労務マネジメントの最前線である”という認識に立たなければならない。現場は雇用形態の多様化により「正規雇用」だけで構成されているわけではない。どのような企業であっても職場は有期契約、派遣、パート、アルバイト社員など、さまざまな雇用形態による就業形態で仕事に従事する人びとが混在している。
当然ながら現場マネジメントには、各雇用形態の違いや個々の雇用契約内容を掌握した指揮・命令の発動が求められる。従って、「人事労務管理は人事部門の仕事だ…」などということが通用せず、現場マネジメントが人事・労務に関する知識と役割機能を蓄積しなければならない。現場マネジメントが人事・労務マネジメントを怠るならば、企業組織の存続をも危うくする危険性さえ存在しているといっても過言でもない。
人事・労務マネジメントは一般的に採用、勤怠管理、給与・報酬の計算や計画、社員教育・育成をはじめ日常的な福利厚生、あるいは労使関係の調整などとイメージされている。このためか企業課題や事業計画(経営戦略)、そしてプロフィットとは直接的関係性が見出しにくいと思われがちだ。そこで、現場のラインマネジメントを担う者の中には、人事・労務マネジメントに対する意識が希薄化する傾向がある。
また、人事・労務マネジメントを「定型的管理業務である」と狭く捉えるならば、業務事態をアウトソーシングすることさえ可能となる。このため、現場マネジメントにとってはますますプロフィット感覚が薄れがちになる。実際に給与計算などの定型業務は多くの企業で「アウトソーシング」による外注が進んでいることは確かだ。しかし、人事・労務マネジメントを広く「人的経営資源をいかに有効に活用するのか」という視点に立ったマネジメント機能と位置づけなければならない。このように位置づけられない現場マネジメントに限って、たとえば新入社員が配属された場合に「こんな新人をなぜ採用したのだ…」というステレオタイプの不満を人事部門にぶつけることになる。この行為自体が現場マネジメントの放棄を意味することになる。
現場マネジメントは「会社組織で発生していることは、全て自らに関わりがあること」との認識に立つことが大前提である。従って、現場マネジメントは組織を構成する「人」に関するマネジメントに対して人事・労務部門に責任転嫁をしてはならない。例えば、現場の一人ひとりの勤怠状況把握にも現場マネジメントの姿勢と責任が問われてくる。法外な「未払い残業請求訴訟」が発生して、慌てて人事部門が調査を行った結果、実は“現場が一人ひとりの残業時間を把握していなかった”などというケースもある。
こうしたケースはマネジメント機能以前に職場秩序が崩壊し始めていることを意味している。現場マネジメントとは部門・部署を構成する人びとに「正しいことを行わせる」ということだ。人事・労務マネジメントはこの前提条件となる。現場マネジメントがこの点をあいまいにするならば業績向上など望めない。
企業の成長には組織モチベーションが不可欠である。そして組織を構成する個々人のモチベーションは本人の資質だけではなく、現場マネジメントの資質との相乗効果でしか発揮されないものだ。同時に現場マネジメントには「安全配慮義務」が課せられていることを忘れてはならない。
現場マネジメントは従業員の適正労働時間の管理、心身の健康に対する配慮、各種ハラスメントに対する適正対処などの人事・労務マネジメント範囲も含まれる。現場マネジメントが担わなければならない役割や課題は極めて広範囲なものである。
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