2013年09月02日号
管理職の仕事を単純に「部下の管理」と錯覚してしまう傾向がある。この錯覚によっていくつもの弊害が発生する。巷では「部下を動かすコツ」等の自己啓発的ビジネス書があふれている。あるいは管理職は「鬼」タイプが良いか、あるいは「サーバント」タイプが良いかなどのタイプ分類も参加だ。一昔前であれば戦国武将や軍隊の指揮官に見立てて仮託する傾向もあった。
しかし、これらは管理職の仕事を「部下の管理」に限定してしまうことによる弊害のあらわれではないだろうか。管理職の仕事は属人化で測れるものではない。仮に個々の管理職が自分の知識と経験と過去の成功体験に基づいた自分の判断基準(つまり属人化)を物差しに用いたならば、自分が理解できる範囲でしか物事を見ないということになる。その最たるものがKKD(勘・経験・度胸)の押しつけだ。
管理職として役割を果たす上司が部下社員に対して、自らが培ってきた知識と経験を開示することは重要であるし否定はしない。しかし、それだけでは何ら発展はしないし、「最近の若い者は…」という愚痴が増えるだけである。今日、加速化する経営環境の変化スピードの下では、過去になし得たアウトプットが何時までも通用することはあり得ない。
仮にこうした上司が管理職として「君臨」している会社組織は、早晩ビジネスシーンから退場を迫られることは必定だ。
管理職の果たすべき役割は何か。それは安易に世代間の相違をことさら振り回すことではなく、具体的に周囲に影響力を発揮して動かすことである。そして自らが会社の経営方針や経営目標を咀嚼し納得して、部下に共有させていくことであり、以下の管理業務に収斂されるだろう。
1.会社の経営目標に沿った部門や部署の目標設定と部下個人への落とし込み。
2.部門や部署の目標を具体的に実行に向けた個別のアドバイス。
3.計画の進捗状況に対する日報・会議等のツールによる適宜確認と適切なフォロー。
もちろん、部下の日常の業務態度、勤怠管理、職場環境の整備などに注力を発揮しなければならないのは当然なことだが、これが管理職の仕事と理解してはならない。あくまでも経営目標を遂行していくうえで付随する業務範疇という位置づけが必要だ。さもなければ、部下におもねり、部下のご機嫌をとるという「本末転倒した才」が管理職のスキルであるかの誤解を生んでしまう。
乱暴な表現だが、一般社員(管理職にとっての部下)は、自社の経営方針に対して基本的に無理解で真剣に受け止めているわけではない。日々のルーチン業務を遂行していくうえで、経営方針に重要性を感じているわけではない。
従って、「会社のあるべき姿」などを考える意識は自然には醸成されるものではない。ありていにいえば、「今、自分の目の前の業務」をこなすことで精一杯ということだ。これは決して社員の能力を過小評価しているわけではなく、そうならざるを得ないということだ。
管理職の役割認知がなければ、先に述べたKKD(勘・経験・度胸)の押しつけが蔓延ってしまう。そこで、管理職の役割は、経営方針や経営目標を理解し明確にして、部下に浸透させる努力の繰り返しであることを常に意識しておかなければならない。
つまり、部下に対して「やってほしいことを正しく理解させ、そしてそれをやらせきる」ことである。これが管理職に必要な「組織コミュニケーション力」である。
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